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「旅行とペット 同行する場合(後編)」【獣医師 小林先生のコラム】vol.28

【獣医師 小林先生のコラム】vol.28

 

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ケーキ開発の際に食材や犬猫にとっての栄養等でアドバイスを頂きました、モノカどうぶつ病院 院長 小林先生のご協力のもと、大切なご家族であるワンちゃん、猫ちゃんの健康についてのコラムを定期的にメールマガジンとして配信いたします。ワンちゃん、猫ちゃんの健康管理の一助にしていただければ幸いです。

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https://www.monoca.jp/

【旅行とペット 同行する場合(後編)】

 ホテルおよび旅先での注意事項

旅行先の地域によっては感染症に注意が必要です。例えば自然豊かな山の中や野生動物にも遭遇するキャンプ場、近くに川や湖などの水辺や土の地面があるような場所に行く場合、旅行の2週間前までにレプトスピラ症という感染症の予防ができるワクチンを接種してください。

通常の5種または6種混合ワクチンで予防できる感染症は、ジステンパー、パルボ、アデノⅠ型、Ⅱ型(以上が最低でも予防することが推奨されているコアワクチン)、パラインフルエンザ、コロナといったウイルス感染症です。

いっぽうレプトスピラ症はスピロヘータと呼ばれる細菌による感染症であり、かつ人獣共通感染症といって人も感染する届出伝染病のひとつです。

感染動物の尿中に排泄された細菌が水辺や土壌を汚染します。感染経路は汚染された場所を動物や人が裸足で歩くことによる皮膚からの経皮感染、汚染された水を飲んでしまうことによる経口感染があります。人は長靴などを履くこと、川や湖の水を飲まない、傷のある手で水に触れないことなどで感染は予防できます。また、おそらく流れのある川では感染する確率は高くないと思われます。近年ではカヤックなど水辺のレジャーでの感染について注意喚起されているいっぽう、ネズミの尿からの感染経路は昔から重要とされており、都心部でも飲食店街などネズミの多い地域は発生リスクがあります。

レプトスピラ症の予防は5種や6種に含まれるコアワクチンではなく、環境や生活習慣などによって接種を検討する任意のワクチン(ノンコアワクチン)である7種以上の混合ワクチンに含まれています。

レプトスピラには多くの血清型がありますが病原性が強くて問題になるのは主に5血清型。しかしながら現状この全てを予防できるワクチンはありません。

7種と8種の混合ワクチンには2血清型の予防が含まれ、10種では4血清型を予防できますが、レプトスピラ症のワクチンは不活化ワクチンという種類で、5種などのウイルス感染症を予防する生ワクチンよりもやや副反応が出やすい傾向にあります。

したがって前述したようにレプトスピラ症は必要なワンちゃんだけ接種することを検討するノンコアワクチンに分類されており、飼い主さんが接種するかどうかを決めてあげて下さい。間違っても「丸腰」状態でお出かけしないようにしてください。注意してほしいのは、過去に一度でもワクチンで副反応が出た経験がある場合、2回目以降のほうが強く出ることがあるため、できるだけ接種を控えるか慎重に行ってください。接種が望ましくないと判断された場合には旅行を諦めていただく方が安心です。

なお、レプトスピラ単独のワクチンもあり、2血清型または4血清型を予防することができます。5種や6種ワクチンを打っていて抗体もまだしっかり残っているワンちゃんで、今年はキャンプに連れて行きたいと言う場合などは、レプトスピラ単独ワクチンの接種を検討すると良いでしょう。しかしながら単独ワクチンも不活化ワクチンですので、副反応については前述したとおりです。

西日本へ旅行する場合にはダニ媒介性感染症に注意が必要です。まずマダニが媒介するバベシア症という寄生虫症があり、発症すると犬に致死的な貧血を起こします。感染しても発症せず不顕性感染となった場合、高齢になって免疫力が低下するような病気になったときに発症することもあります。

温暖化やペットとの旅行など広範囲な動物の移動の機会が増えたことで、近年では関東での発症も確認されており注意が必要な感染症になっています。

マダニは動物の体についてからすぐに吸血するわけではありません。吸血するのに心地よいところを探すため体表を動き回ります。吸血の際にマダニの体内から病原体が犬の体に入りこむまでにもタイムラグがあります。一般的に利用されているノミ・マダニ予防薬のうち滴下タイプ、内服タイプのいずれもバベシア症の予防に効果があることが知られているため、必ず事前に予防薬を投与してから旅行に行きましょう。薬剤を使用後どれくらいで効果がみられるかについては各メーカーの能書に記載されているので確認してください。

 SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は近年知られるようになってきたウイルス感染症で、バベシア症と同じようにマダニが媒介します。バベシア症は犬なら犬、人なら人の感染症なので犬のバベシア症が人にうつることはありませんが、SFTSは人獣共通感染症で、人から動物よりも動物から人への感染が問題になります。

 若く健康な人でも不顕性感染は少なく、感染するとほぼなんらかの症状がみられると言われており(多くは元気・食欲消失、発熱、下痢、黄疸、血小板減少、白血球減少など)、高齢者など免疫力の低下した人では亡くなるケースもあり致死率は5%~30%とされています。

 犬や猫が感染したときにも人と同じような症状がみられるとされていますが、犬では致死率30%、猫では60%と言われています。

 人もペットもマダニ咬傷の歴がわからないと診断を付けるのが難しいため、明らかになっていないケースも多数あると考えられます。

 SFTSを防ぐにはマダニ咬傷を避けるとともに、感染している動物との接触を避ける必要があります。国内では犬からの感染よりも野良猫に咬まれたり引っかかれたりすることによる感染が知られていますが、ウイルスキャリアーとなったワンちゃんと濃厚接触をした飼い主さんが感染してしまった例もあります。

 ただ残念ながらバベシア症とは異なりSFTSはノミ・マダニ予防をしていても感染してしまった例があるためお薬の効果は完璧ではありません。

 とはいえ確率はかなり下げられるため、人が長袖、長ズボンをはいてマダニ予防するのと同様に、ペットも必ずマダニ予防薬を使用しましょう。

 旅先ではアクシデントがつきものです。例えばワンちゃんがケガをしたり、食べなれないものを食べてお腹を壊したりすることがあるかもしれません。そのような時に診てもらえる動物病院がホテルの近くにあるかどうか、事前に必ず調べておきましょう。観光地では動物病院そのものが少ない可能性もあります。軽いケガなら人と同じように洗浄と消毒、抗生物質の軟膏などでしのいであげることもできるので、持ち物の中に入れておくと良いでしょう。

 動物の健康保険に加入している人は保険証を持って行ったり、これまでの病歴やワクチン接種歴などの健康手帳がある場合には、それもあると診察がスムーズになる可能性があります。

 もっとも大切なのは、旅行中に決してペットから目を離さないこと。事故にあったり迷子になってしまったり、慣れない環境で興奮して他のワンちゃんや人とトラブルになってしまうことのないよう、きちんと責任をもってリードを保持し、マナーを守って楽しい旅行にしてあげてください。

 

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